とびのジンキ(腎気)
大好きなねこ。
ぼくは赤堀とびまる。
赤堀家の長女に連れられて、13年と7ヶ月前にこの家にやってきた。
生後一週間で生母と引き離されるという無茶をされたけど、まあまあ元気にここまでやってきた。
この家の人たちは、ずいぶんとぼくを気に入っていたようだよ。
でも、なにかというと生薬の匂いを嗅がされたり、漢方薬を飲まされるのには正直参ったなぁ。
ちなみに、ぼくはハンサムです。
ほら、ね。
きれいでしょ。
家族のみんなにも、主人の客人にも、いつもそう言ってほめられるんだ。
ぼくはこの家を気に入っていたし、家族のことも大好きだったから、ここには長居するつもりでいたけど、
例のあそこから連絡が入ったから、そういう訳にもいかなくなっちゃった。
ぼくらにはぼくらの掟があるんだ。
お世話になった記念に、ぼくは長女にプレゼントをすることにした。
長女は漢方オタクだからね。
たぶん、最高のプレゼントだよ。
陽気暴脱を見せてあげたんだ。
おっと、ようきなんとかと言っても、諸君にはなんのことかわからないね。
長女流に中医学用語で言ってみたのさ。
こんな瞬間は、なかなかお目にできないだろうからね。
長女はずいぶんと焦ってたな。
真陽は腎で燃えているからね、これは腰にくるよ。
嘔吐するにも、まともに立てやしない。
さあ、長女に見せられるのはここまで。
体力は消耗してたけど、しっぽを膨らませて、特上の唸り声をふたつ上げてみた。
長女はひいてたな。
ぼくの言葉を理解したのか、びびってたのか。
長女は陽気固脱しなきゃとか、回陽救逆とか、附子とか人参とか乾姜とか泣きながらぶつぶつ言って走っていった。
ぼくのもくろみ通りさ。
最後の瞬間は見せられない。
参附湯の味見は自分でやってくれ。
そろそろ時間だ。
なかなか楽しい猫人生だったよ。
2009.12.11 15:40
命は育まれて、そしてバトンタッチされます。 この命、ひとつの命、次の命を大切に 。
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